最終回「父娘の愛は海よりも深く」 (03/10/06) |
Faceは背後から歩み寄る足音に気づいた。 「やはり、来たか……」 「Lond……」 LondはFaceを見据えて、静かに開口した。 「お前だったんだな……」 「Perdel……」 「やはり、気づいたか」 「あぁ。Crioから彼宛に出した手紙を見せて貰った。 Perdelの文字の癖はよく知っている。まさかとは思ったが、Faceにしては知らないことまで知りすぎている」 Londは続けた。 「それに、思い出したことがある……。 Perdelが発見し、誰にも語られることがなかった魔法、コンフュを」 Perdelは頷いた。 「もともと、標的に幻覚を見せて同士討ちをさせるのが目的。 だが、それを強化して、標的自身の姿をヒュームなどに変え、同士討ちをさせる、新たな魔法だ」 「Ryokoが見たという、Perdelを斬首したわたしの姿は……」 「お前だったんだな」 「……あぁ。その通りだ」 「いったい、なぜ! それ以前に、殺されたはずのPerdelは、一体、誰なんだ」 「わたしは、Carlanの不正に気づき、それを止めに入ったが、Carlanに殺されることに気づいた。 いつ、狙われるか分からないその恐怖が原因で、ドラギーユ城進入のミッションに失敗し、捕まってしまった。 あの時、Faceがもう少し手を差し延べてくれれば、捕まらなかったものの……」 「それだけの事でFaceを自分の身代わりに選んだのか?」 「いや、コンフュはごく親しい人物の姿に変える魔法。Faceには悪いが、死んで貰った」 Londは眉間にしわを寄せた。 「お前にボストーニュ監獄から脱獄の手伝いをして貰ったものの、命を狙われる羽目になってしまった。 前後から命を狙われ、自分を救う道が一つしかない事を感じ、賭に出た」 「自分からCarlanを誘い出し、自分の存在を消す賭だ」 「Carlanは確かにFaceを殺したのか?」 「いや、とどめを刺し損ねたようだ。 Faceには生きて貰っては困る。とは言え、死んでしまっては、コンフュの効果が切れてしまう。だから、結果的に奴を斬首して、わたしが死んだことに見せたのだ」 「だが、そこをRyokoに見られた」 「あぁ。Ryokoがなぜあそこにいたのか分からない。まぁ、誰かに目撃されても良いように、お前の姿をしていたのだが」 「結果的に、悪い方向に行ったがな」 「あぁ……。わたしの存在が死んだために、お前はわたしの妻を慰めに行った。それが結果的にRyokoの行方不明に繋がった。そして、お前は妻を連れて、どこかへ消えた」 「Ryokoを探しに行ったのだ」 「結果的に、お前はわたしから妻を奪った」 「すまないと思っている……」 「だが、わたしもお前からあいつを奪ってしまった」 「?」 「あいつが亡くなった原因を作ったのは……」 「妻を奪ったお前を殺すつもりだった。だが、結果的に妻の命を奪ってしまった」 「…………」 「今回の復習劇で、いつしかCarlanだけを復讐すれば良いと思ってしまったが、そう言うわけにはいかなくなってしまったようだな」 二人はお互いに武器を構えた。 「お互いに、失ったものは同じか」 「あいつの前でなくて良かったな……」 「話はCarlanさんから聞きましたよ。Perdelさん」 「Perdel……。おまえを苦しめてたのは謝る……」 Perdelは眉間にしわを寄せた。 「…………」 「一つ聞きたいことがある……。 なぜ、あの時、わたしを助けた。おまえの目的は、わたしに復讐すること」 Perdelはゆっくり口を開いた。 「おまえは、かばってくれた……。 Ryokoの口から幻覚と聞き、Faceがわたしだと気づいたんだろう」 「おまえから、一度だけコンフュの魔法を見せて貰った事があったからな……」 「Ryokoが見たLondがわたしであることに気づいたおまえは、Ryokoの事を思って……」 「わたしは、あの時のことを悔やんでいた。だから、せめてもの償いに……」 「だが、それとこれとは別だ。 わたしは、おまえに狙われたおかげで、人生を狂わされた」 「Perdel! それはおまえの思い違いだ」 PerdelはLondを振り返った。 「わたしが、あいつに近づかなければ、おまえの思い通りになったはずだ」 「……そうだな。 おまえとは、決着つけなくてはいけないとは思っていた」 「Tubomi……」 「苦しんでいるのはPerdelさんだけじゃないんです! お父さんだって、あなたからお母さんを奪ったこと、悩んでいるんです」 TubomiはPerdelにネックレスを見せた。 「このネックレスに、毎年、バルクルム砂丘の白い砂を捧げているの」 PerdelはLondを振り返った。 「Lond……」 「あいつがやっていた……。 お前のことを想っていたのだろう。それを見る度に、とても苦しかった」 「あいつと初めてであったのは、青い月が夜空に浮かぶ砂丘だったのだ」 「おまえからあいつを奪った責めともの償いに、砂丘の白い砂を……」 「Ryoko……」 RyokoはPerdelにネックレスを見せた。 「これがCarlanさんの家にあったというのは、嘘だったのね。 Carlanさんを問いつめたら。拾った覚えはないって言ったわ」 「…………」 「ずっと、肌身離さず、持っていたんでしょ。いつか、父親としてわたしの前に現れる時が来るまで」 「やめてくれ……。 人を殺したわたしには、父親を名乗る資格などない……」 「Perdel。娘のためなら、人を殺してもいいとは言わないが、それぐらいの愛を持っても良いと、わたしは思う」 「…………」 「娘の目の前に高い山があれば、よじ登ってでも会いに行き、 そこに海が広がっていたら、泳いででも会いに行くべきだ」 「Lond……」 「おまえとRyokoの間に、罪という厚い壁がある。 わたしは、おまえに殺されて当然だと思うが、娘がいる以上、死ぬわけにはいかない。 それは、おまえも同じだ。 今、おまえの出来ることは、娘の側にいてやることだ」 「…………」 「もう、やめましょ。 これ以上、罪を増やしたら、償えるものも償えなくなる」 「…………」 「お母さんが見てるわ」 PerdelはTubomiを見た。 「…………」 Perdelは地面に跪いた。 TubomiはPerdelに歩み寄った。 「Perdelさん。わたし、わからないことがあるの」 「…………」 「どうして、犠牲になったのは、お父さんじゃなくて、Faceさんなの?」 「…………」 「もし、20年前、お父さんが犠牲になっていれば、お母さんは、あなただけの存在になったのに」 「……あいつの心の片隅には、いつもLondがいた。 Londが死ねば、あいつは悲しむ。わたしは、あいつのそんな姿を見たくない。自分が惨めになる」 Perdelは立ち上がり、Tubomiの肩に手を置いた。 「わたしはRyokoさえいればいい。 おまえは、Londと共に生きろ」 Tubomiは頷いた。 PerdelはLondに目配せした。 「……あぁ」
LondはTubomiに歩み寄った。 「お父さん」 「長いこと、心配掛けたな……」 「もう、どこも行かないよね。一人にしないよね」 「あぁ……」 「おまえの娘が病気だと知っていれば、無理に止めなかったものを……」 「不正は不正だ。 それ以前に、おまえを殺そうとしたのは、間違っていた」 「……おまえはもう償いをした。 今度は、わたしの番だ」 「Ryoko……。 こんなわたしでも、着いてきてくれるか?」 Ryokoは頷いた。 「償いの旅だ」 「お父さんの罪が、少しでも軽くなるのなら」 「おまえに、一つ訊きたいことがある」 「20年前、なぜ、おまえがあの場所にいたんだ?」 「Faceさんとパルブロ鉱山へ鉱石を取りに行こうと思ってたの」 「鉱石?」 「新しいペンダントが欲しかったから」 「なぜ?」 「妹か、弟が欲しかったから」 Perdelは微笑んだ。
RyokoはTubomiを振り返った。 「うん。きっと……。 その時は、『お姉ちゃん』って、呼んでいい?」 Ryokoはにこりと微笑んだ。 「その時じゃなくても、いいのよ」 「うん。お姉ちゃん」 「なんだ、結局みんな、20年間、娘のために悩んでたんじゃないか」 「Crio殿には、娘はいないのか?」 「残念ながら、娘ではなく、息子がね。生まれたての」 「それはめでたい」 「あっ、今度、見せて貰っていい?」 Crioは照れた。 「Tubomi。これからゆっくり暮らそう。 別れ離れになった空白の時間を、目一杯の幸せで埋めよう」 「うん。 みんなの思い出も一緒に……」 おわり。 |